疾患関連

脂肪萎縮症
バーチャル症例検討会

脂肪萎縮症患者さんの経過を時系列で紹介します。症状や特徴から病型について予想しながらご覧ください。
また、最後に「診断のポイント」として、脂肪萎縮症の特徴や診断のきっかけとなる症状を紹介しています。

ここで提示されている症例は、架空のモデル症例です。実際の症例ではありません。

Case 1

自己免疫性疾患を合併した男性患者

自己免疫性疾患を合併した男性患者自己免疫性疾患を合併した男性患者自己免疫性疾患を合併した男性患者自己免疫性疾患を合併した男性患者

後天性全身性脂肪萎縮症

診断のポイント

監修:独立行政法人国立病院機構 京都医療センター
臨床研究センター 臨床内分泌代謝研究室長
日下部 徹 先生

  • 脂肪萎縮症は、重度のインスリン抵抗性、高中性脂肪血症、脂肪肝などのさまざまな代謝異常症を高率で合併する
  • 脂肪萎縮により摂食抑制作用を持つレプチンの分泌が減少し、食欲の亢進が認められる
  • 後天性全身性脂肪萎縮症(AGL)患者の約半数で、若年性皮膚筋炎、若年性関節リウマチ、全身性エリテマトーデスや皮下脂肪織炎といった自己免疫性あるいは炎症性疾患を合併することが報告されている
  • 全身性の脂肪萎縮とこれらの疾患の併発が認められる場合には、AGLを疑うことが重要
  • 近年、免疫チェックポイント阻害薬の投与後にAGLを発症するケースも報告されているため、既往歴や治療歴を正確に把握することも診断の助けとなる
  • 全身性脂肪萎縮症の補助診断として、全身MRI T1強調画像検査と血中レプチン濃度の測定が有用

KEYWORD

自己免疫性疾患炎症性疾患免疫チェックポイント阻害薬 血中レプチン濃度測定

後天性全身性脂肪萎縮症(AGL)の特徴2-5

病因
  • 自己免疫性疾患、炎症性疾患、薬剤性
脂肪組織の減少/消失と分布パターン
  • 幼少期または青年期
  • 数週間から数年にかけて徐々に減少し、脂肪組織が全身性にほぼ完全に消失
代謝異常
  • 通常は幼少期に発現する
  • 一般的に重症
家族歴 なし
全身性脂肪萎縮症の
鑑別診断
  • 極端な痩せ体型に関連する症状(例:栄養失調/飢餓、神経性食欲不振症、がん・炎症性疾患・甲状腺機能亢進症・副腎機能不全・HIV消耗性症候群・間脳性悪液質などさまざまな病因によって引き起こされる悪液質)
  • 体質的な痩せ
  • インスリン受容体変異による重度のインスリン抵抗性
  • 先端巨大症/偽性先端巨大症
  1. 日本内分泌学会雑誌Vol. 94 Suppl. September 2018より改変
  2. Brown RJ, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2016; 101: 4500-4511.
  3. Handelsman Y, et al. Endocr Pract. 2013; 19: 107-116.
  4. Gupta N, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2017; 102: 363-374.
  5. Fourman LT, et al. Front Endocrinol(Lausanne.)2024; 15: 1383318.

Case 2

クッシング症候群が疑われた女性患者

クッシング症候群が疑われた女性患者クッシング症候群が疑われた女性患者クッシング症候群が疑われた女性患者クッシング症候群が疑われた女性患者

家族性部分性脂肪萎縮症2型
(Dunnigan 症候群)

診断のポイント

監修:独立行政法人国立病院機構 京都医療センター 臨床研究センター 臨床内分泌代謝研究室長
日下部 徹 先生

  • 家族性部分性脂肪萎縮症(FPLD)は、幼児期早期までの脂肪組織分布は正常で、青年期(思春期)頃に主に四肢・臀部の皮下脂肪組織が減少・消失し、両肩から頭部の皮下脂肪組織は保たれるか代償性に肥大する
  • 脂肪分布から、クッシング症候群との鑑別が必要になる場合がある
  • FPLDは通常は家族性に認められ、診断には遺伝学的検査が有用
  • インスリン抵抗性による代償性の高インスリン血症の持続は、 黒色表皮腫、多毛、心筋肥大、骨格筋肥大を引き起こし、女性患者では多嚢胞性卵巣、高アンドロゲン血症を引き起こすと考えられる

家族性部分性脂肪萎縮症の遺伝学的検査は保険収載されている

KEYWORD

クッシング症候群筋肥大遺伝学的検査

家族性部分性脂肪萎縮症(FPLD)の特徴2-9

病因
  • 病原性DNA変異
    主な病因遺伝子:LMNA(FPLD2)、PPARG(FPLD3)、PLIN1(FPLD4)、CIDEC(FPLD5)、LIPE(FPLD6)、AKT2
脂肪組織の減少/消失と分布パターン
  • 思春期頃
  • 脂肪萎縮のパターンはさまざま、通常は四肢・臀部
代謝異常
  • 成人期
  • 重症度はさまざま
家族歴
  • あり(通常は常染色体顕性**(優性))

**CIDEC、LIPE 遺伝子によるものは常染色体潜性(劣性)

部分性脂肪萎縮症の
鑑別診断
  • クッシング症候群(中心性肥満)
  • 胴体肥満
  • メタボリックシンドローム
  • 2型糖尿病(特にコントロール不良および/または脂肪肝および高中性脂肪血症を伴う場合)
  • HIV関連脂肪萎縮症
  1. Meral R, et al.: Diabetes Care. 2018; 41(10): 2255-2258より改変
  2. Garg A, et al. Biochim Biophys Acta. 2009; 1791: 507-513.
  3. Brown RJ, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2016; 101: 4500-4511.
  4. Handelsman Y, et al. Endocr Pract. 2013; 19: 107-116.
  5. Gupta N, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2017; 102: 363-374.
  6. Fourman LT, et al. Front Endocrinol(Lausanne.)2024; 15: 1383318.
  7. Gonzaga-Jauregui C, et al. Diabetes. 2020; 69: 249-258.
  8. Lightbourne M, et al. Endocrinol Metab Clin North Am. 2017; 46: 539-554.
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